コラム
初めましての方は初めまして。NaGISAと申します。私は2003年よりフリーのノベルゲームとアドベンチャーゲーム(ADV)のレビューを自分のサイトで開始し、途中休止期間はあったものの、現在まで19年間で、約1500本の作品を取り上げてきた、末端のフリーノベルゲームファンです。現在はブログで1か月に20本前後の作品を紹介し続けています。ノベルゲームとADV以外はやりませんので、ちょっと偏っているかも知れませんが、そこはご容赦ください。
1.フリーゲームはオワコン?
さて、時々「フリーゲームはもうオワコン」と言う意見を耳にします。オワコン(終わったコンテンツ)とはちょっと極論な気もしますが、しかし2000年初頭からフリーゲーム(私はノベルゲームとアドベンチャーゲーム専門ではありますが)を見ている者としては、その意見に少し頷けるところがないでもありません。
というのも、ダウンロード数が激減しました。10分の1か、人によっては20分の1という人もあるくらいです。実際、2004年に私自身もノベルゲームを完成させたのですが、その作品は字だけの地味な作品にもかかわらず、運良く2万回もダウンロードしてもらえました。ですが今同じ作品を出したとしても、当時の20分の1である千回ダウンロードされるかどうかも怪しいところ。せいぜい3桁がいいところでしょう(200分の1?!)。
ダウンロード数が減った原因は明らかです。2000年初頭、フリーゲームというのは、無料で気軽にゲームを楽しめる非常に重要な娯楽の手段でした。ところが今や、スマートフォンやタブレット端末を使って無料でできる、プロのクリエイターが作ったゲームがいくらでもあります。
なので、ただ単に無料でゲームをやりたいような人は、フリーゲームをわざわざやったりはしなくなったということです。課金しないのであれば、プロのゲームがただで遊べてしまうんですからね。
要するに、フリーゲームのプレイ人口が以前に比べ大幅に落ち込んでいるのです。これは間違いない事実として認めねばなりません。
- プレイヤー側から見た今のフリーゲーム
では、その事実をもって「フリーゲームはオワコン」なのかというと、私は「ちょっと待った」と申し上げたい。
まず、プレイ人口が減ったのは事実ですが、作品を作る人の熱量は昔と変わりません。変わらないどころか、ツール(ゲームを直接作るツールはもちろん、グラフィックツール、動画制作ソフト、音楽制作ソフトなど色々)が進化したせいもあるでしょうが、10年前、20年前と比べても圧倒的に力のこもった作品が増えました。
歌付きのオープニング動画やフルボイスなど、昔は滅多にお目にかかれませんでしたが、今そんな作品は珍しいものではありません。つまり、質の高い作品が大変増えたということです。ビジュアル面やサウンド面、動画だけが作品の質ではないとはいえ、見た目に豪華な作品が増えたのは事実です。
そして質だけでなく、作品量も増えました。プレイヤー数が10分の1、20分の1になったのに対し、作品数は逆に10倍にも増えたのではないでしょうか。プレイヤーとしては文字通りよりどりみどりです。20年前であれば、私が好きなノベルゲームやADVは、月に2、3本ということもあったのですが、ノベルゲームの一大祭典であるティラノゲームフェスの締切間際には、一週間で数十本の作品が公開されます。
作品の総量が増えたのですから、当然良い作品、自分の感性に合う作品に出会えることも増えたということです。もちろん、これだけ作品が増えると、いい内容なのに埋もれてしまう作品が出るなど、別の問題もあるのですが、少なくとも遊ぶ作品に困ることはありません。1年中いつでも、新しい作品が出てくるのですから、フリーゲームをプレイする側としてはうれしい悲鳴です。
- 制作者から見た今のフリーゲーム
ここまではプレイヤー視点で書きましたが、制作者から見ても、今のフリーゲームはかなりいい時代だと思います。
まずプレイヤー視点の項でも書いたように、各種ツールが大変進化し、凝ったものを作りやすくなりました。つまり、自分の思ったものを形にしやすくなったということです。それは、単純に20年前と現在の作品を見比べてみればすぐに分かること(これは決して、20年前の作品が劣るということを意味するものではありませんし、また見た目地味な作品だから内容が悪いということにもなりませんので、念の為。古くても、見た目地味でも、素晴らしい作品はたくさんあります)。
また作品を作って公開したら、プレイヤーからもらえる感想が何よりの制作意欲に繋がるのは間違いありませんが、今は昔よりかなり感想をもらいやすくなっているのです。
かつてはゲームを投稿するサイトと言えば、Vectorかふりーむくらいしかなく、投稿したらプレイヤーの反応は投稿サイトのコメント欄、または個人ブログやサイトを探すしかありませんでした。作品投稿サイトのコメント投稿欄は今ほど充実しておらず、作品を投稿しても年単位で何も感想がない、なんてことは珍しくありませんでした。
しかし今や投稿サイトのコメントシステムも充実し、特にティラノゲームフェスやWolf RPGエディターコンテストの期間中は、非常に多くの感想で大活況を呈しています。またそのようなイベント期間でなくても、Twitterで短文ながら感想を投稿する人が増えた印象です。検索のしやすさも手伝って、以前よりプレイヤーの感想を得られる機会は、かなり増えたのではないでしょうか。
感想だけではありません。「ファンアート」も今は非常に盛んになりました。感想とはまた違う方法で、その作品に対する思い入れを表す方法ですが、これがどれほど作者の力になるかは、想像に難くないでしょう。これも、イラストを届ける手段が昔より容易になったからこそです。昔であれば、メールで送るくらいしかなかったのですが、今はTwitterで簡単に投稿できますからね。
感想やファンアートは、プレイヤー側が作者にメッセージを届けるのですが、作者同士の交流も見逃せない要素です。20年前のフリーゲーム制作者は、時折サイトに用意された掲示板でプレイヤーや他の制作者とやり取りをする程度で、制作者同士の交流と呼べるような繋がりはほとんどなかったはずです。
しかし今は、プレイヤー数が減った代わりに、制作者同士でお互いの作品をプレイし合い、Twitterなどで頻繁にやり取りをするという文化が確立しました。フリーゲーム制作という孤独になりがちな作業において、これがどれほどのメリットをもたらすかは言うまでもありません。刺激になりますし、学びにもなります。
作品が作りやすくなり、感想やファンアートなどプレイヤーの反応が貰いやすくなり、交流がしやすくなった。フリーゲーム制作者にとって、いいこと尽くめではありませんか。プレイヤーだけでなく、制作者にとっても、今はとてもいい時代なのです。
- 一番大切なこと
そして一番大切なことがあります。プレイヤー数が激減したと書きました。ではどんな人が減ったのか。それはフリーゲームに対し、「無料でプレイできる」以上の価値を見出していなかった人です。上記の通り、今はプロが作った作品が無料で遊べる時代。「ただで遊べる」ことにしか興味がない人は、より質が高いプロの作品に流れて当然です。
ではどんな人が今フリーゲームプレイヤーとして残っているのか。それは「無料で遊べる」こと以外の価値を、フリーゲームに見出している人たちです。その価値は、人によって様々でしょう。
作者との距離の近さ。アマチュアならではの発想の斬新さ。荒削りながら作者の思いが溢れているところ。人によってフリーゲームをプレイする理由、フリーゲームに感じる魅力は色々あるでしょうが、一言で言うのであれば次のように言い表せます。
つまり、今フリーゲームを好んでプレイしているのは、みんな「フリーゲームが大好きな人たち」なのです。
かつてプレイヤー数が多かった頃は、匿名掲示板で随分心無い感想が書かれることも珍しいものではありませんでした。「ただで遊べる」ことにしか価値を感じていないと、好き勝手言う人があっても無理からぬことです。
しかし今のプレイヤーは、みんなフリーゲームが大好きなのです。フリーゲームが大好きな人たちですから、自然と作者と作品に対する敬意が生まれます。作者に対する敬意があるプレイヤーがいると、制作者のやる気に繋がり、良い作品が生まれます。良い作品が生まれるとプレイヤーはより作者に好感を持ち、敬意を抱きます。素晴らしい好循環ではありませんか(作品や作者に敬意を持っていない実況者によるトラブルという新たな問題も生まれましたが、それについては省略します)。
確かにフリーゲームのプレイヤーは大幅に減りました。しかし「フリーゲームを作るのが大好きな人たち」が作品を作り、「フリーゲームを遊ぶのが大好きな人たち」が残り、そんな好循環が見られる現在は、間違いなくフリーゲームにとって最も良い時期であると言っても過言ではないと、私は思います。そしてフリーゲームはそれだけの魅力がある世界です。
ですから、「フリーゲームなんてオワコンでしょ?」と言われたら、自信を持ってこう答えればいいのです。
「いいや、今のフリーゲームは、作る人にとっても遊ぶ人にとっても最高だよ」
そして「なんでフリーゲームなんてやっているの?」と言われたら、やはり自信を持ってこう答えましょう。
「そんなフリーゲームが大好きだから!」
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※フリーのノベルゲーム、ADVを19年レビューし続けている私のブログ。約1500本の作品を紹介しています。フリーノベルゲームとADVがお好きな方は、是非一度ご覧ください。
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