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とりあえず完成のすゝめ

 

コラム

「とりあえず完成のすゝめ」

ゲーム制作をはじめとした創作全般としての最大の敵とは何でしょうか?

私が一番に答えるのなら「エタる」、すなわち「頓挫したりして永遠に完成しない(故にエターナる・エタる)」ことが最大の敵だと考えます。
誰しも最初からエタりたくて創作する人はいないでしょう。
でも、エタります。今まで多くの方々がエタりに屈し、世に出ることがなかった作品はたくさんあります。
私自身も10作品程ゲーム作品は完成はさせていますが、構想含めれば多くの企画がエタり、作品として産声を上げることなく潰えています。

何故、作品はエタるのでしょうか?
何故、人類は作品をエタらせるという悲劇を繰り返すのでしょうか?

人類が愚かだからでしょうか?それとも人類が怠惰な生き物だからでしょうか?
そもそも、ゲーム制作というひとつの世界を生み出すこと自体が、人類に許されてはいない神の御業だからでしょうか?

いいえ、違います。

エタりの大きな要因のひとつに、「レベル1のひのきのぼう装備の勇者のまま、ラスボスに挑んでしまいがち状態」があるのだと考えます。
壮大なラスボス戦に行く前に、まずはレベルを上げて装備を整える必要があるのです。

最初、「何かゲームを作りたい」となったとき、「壮大な物語にしたいな」とか、「あの有名タイトルみたいなシステムのゲームにしたいな」とか「性癖全部詰め込んだ魅力的なキャラクター出したいな」とか、どうしてもそういうことを考えがちだと思います。
「とりあえずツクールMVのハロルド君(※1)が山へ芝刈りに行くだけのRPG」とか、「とりあえずウディタのウルファールちゃん(※2)が川へ洗濯に行くだけのRPG」みたいな作品をすごく作りたい!!とはなっていない方が大多数だと思います。

でも、まずは上記のタイトルのような「とりあえず完成のみを目指した簡素な作品」作りを繰り返すことが大切だと考えます。
そんなのすぐ出来そうじゃない???って思ったりしませんか?
でも実は、そんな簡素な作品でさえも色々とやることは多いし、考えることもたくさんあります。

では、例として「とりあえずツクールMVのハロルド君が山へ芝刈りに行くだけのRPG」で考えてみましょう。

まずは設計です。
ハロルド君の芝刈りまでのシナリオとルートを考えましょう。
極力シンプルに……といっても、

【まずベッドから起きて】、【家から出て】、【山に向かい】、【芝を刈る。】

と設計できます。少なくとも、「ベッドから起きる」「家の中から家の外へマップ移動する」、「山マップへ移動する」、「芝を刈る」という4つのイベントを作る必要がありますね。
単純化してひとつひとつ小分けするとなんとなく出来そうな気がしますね。しかし、最初のゲーム制作エディタに不慣れで何がどこにあるかも分かってない状態だと意外と時間がかかるものです。

次にシステムを考えましょう。

タイトル画面は必要ですね。エンディングやスタッフロールも欲しいですね。それに家から山までのマップも用意しないといけない……。
RPGですから、プレイヤーに状況を説明するための台詞や行き先を示してくれる村長とかのNPCも欲しいですね。せっかくなんで道中のイノシシや山賊との戦闘も入れちゃいましょう。
こうなってくると戦闘システムやスキルやモンスターの設定、ハロルド君の持つ芝刈り鎌の攻撃力設定もしなきゃいけなくなる。あと回復アイテムも欲しいなぁ……。
色々と書いてしまいましたがそんな訳で、システムから必要となるイベントは、

【まずベッドから起きて】、【家を出て】、【村長から芝刈りスポットを教えてもらって】、【山に向かい】、【装備やアイテムを揃え】、【イノシシや山賊を戦闘で倒し】、【芝を刈る】。

となります。

ただ、「とりあえずツクールMVのハロルド君が山へ芝刈りに行くだけのRPG」なのに、いざ作るとなるとやることが沢山できますね。いやー、忙しくなるなぁ……。
ゲーム制作はやることが沢山ありますね。

でも、その「とりあえずツクールMVのハロルド君が山へ芝刈りに行くだけのRPG」が完成したら何が起こるでしょうか?
起こることは2つあります。

1つめは、「一通りの基礎イベントを作ったことで完成までの手順ややることがなんとなく理解できる」ことで、
2つめは「これから何かしらRPGを作る時に使うイベントのテンプレートができる」ことです。

最初から自分の考えた最強のストーリーを突っ込もうとすると、NPCの村人Aとの会話イベントひとつ作るのにも、こうありきたりなのもなんかなぁ……って思って、突然魔物に襲われて爆発四散する最初の犠牲者にしたくなったり、実はハロルド君を暗殺しに来た魔王幹部という設定にしてみたかったり、村人Aの顔グラフィックを超イケてる美男な素材にしてみたくなったり……と色々とやりたいことが山積みになってしまってどう組めばいいかも分からなくなってしまいます。
最初はシンプルなことだけをさせることを意識したものを作ることで、完成に必要な基礎土台を作っていき、積み上げていきながらやりたい幅を広げていくことがゲーム制作においては大事だと考えます。

例として、先ほどの「村人Aは実はハロルド君を暗殺しに来た魔王幹部という設定」が作りたくなった場合、会話イベントからそのまま戦闘イベントが発生することが考えられますね。
そうなると、「NPCとの会話イベント」と「戦闘イベント」の合わせ技になるので、先ほどの「とりあえずツクールMVのハロルド君が山へ芝刈りに行くだけのRPG」から【村長から芝刈りスポットを教えてもらう】会話イベントと、【イノシシや山賊との戦闘】の戦闘イベントを引用して合わせて少し好みの具合に微調整すればよいわけです。
戦闘システムも【イノシシや山賊との戦闘】いう基礎システムをそのまま使うのも、新しくスキルなどを付け足して拡張・改造するも良しです。

そんな流れで作品の完成を重ねていきながら、付け足し秘伝のソースみたいに基礎イベント拡張させて……。といったような形でゲーム制作における機能やクオリティを拡張していくことが、最も着実にゲーム制作のノウハウを獲得していく手法なのです。クオリティを上げたかったり高度なイベントを組みたくなったりした場合、どうしてもその前提となる基礎知識や経験が必要な場面に遭遇します。その上でも、まずはどんな簡単で単純なものでも一通りにとりあえず完成させることは大事なのです。完成した経験は経験値となり、完成した作品は装備品となり、後々の制作で必ず活きるのです。
他にも一度完成を通すことで、完成までに必要な知識や素材の理解、自分の現在できる技術レベルの把握、完成に必要な時間の目星など、様々な完成に必要な感覚を身に付けることができます。

少し地味かもしれませんが、作品を重ねるごとにできることが増えていくのは楽しいものです。
もしゲーム制作に挫折していたり、エタったままの抱えている作品があるのであれば、「とりあえず完成」で着実に力を付けてから、もう一度挑んでみてはいかがでしょうか?

(※1:ハロルド君)RPGツクールMVのデフォルトキャラクター。フリーゲーム好きな人はもう親の顔以上に見たことあるキャラクターかもしれない。

(※2:ウルファールちゃん)ウディタこと、「WOLF RPG Editor」のマスコットキャラクター。かわいいのでもっとファンアートイラスト増えて。

 

(七画形(ななかくけい))